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隣国の侵略に王国が脅かされていたその時、巨大な紅蓮の炎を
吹き上げる竜を従え、第三王子ゼオは帰還した。
王国は恐怖で彼らを迎えた。
その恐怖は竜にではなく、他ならぬゼオに対して向けられた
ものであった。
それもそのはず、火竜討伐の名目で側室の子であったゼオを
亡き者にしようともくろんだ王妃首謀の元、
第一第二王子派閥の貴族一派の仕組んだ陰謀が
まさかこのような形で覆されるとは露ほども
思っていなかったからである。
とはいえ隣国同盟国からの突然の侵略に足並みを崩され
篭城戦を強いられた王国にとって、ゼオの帰還は
予想外の朗報となった。
いともたやすく兵士を切り裂き、塵に変え荒れ狂う竜。
そこには敵味方の区別など存在しなかった。
まともに戦場に立っていられる者はゼオただ一人という有様で
ある。
その異様な光景と威風堂々としたゼオの姿に、しだいに人々は
熱狂し彼を竜帝、竜すら従える王の中の王と呼びはじめた。
貴族たちもゼオの力に脅威を感じ、ゼオこそが次期国王だと
寝返る者も現れ、ゼオは最有力国王候補となっていく。
しかし・・・
ゼオの心には一つの強い感情があった。
現王国への復讐。
自分を蔑み亡き者にしようとしたもの達への復讐。
火竜討伐の際、命を落としていった部下たち、そして軟禁され
惨めな最後を迎えた母の復讐。
討伐の日、自分を亡き者とする策と知りつつ、行かねばならない
その身に最後までついてきた、彼を慕う部下たち。
瀕死の部隊は火竜の前にたどり着くも、竜と一戦交える
力はすでに無く、死は確実のものとなっていた。
ゼオは狂ったように笑い、竜に己の身の上を嘆き、怒り叫んだ。
「さあ喰らえ、次に生まれる時こそは貴様のように強靭で誰にも
縛られぬ自由な獣に生まれてやる」と。
すると驚いた事に頭の中に言葉とも感情ともつかないものが
響いてきたのだ。
(永遠の自由とは退屈なもの、お前には燃え盛り消えていく
劫火の如き輝きがある。)
ゼオは言った。
「ならば退屈な時を生きる獣よ、お前にひとときの遊戯場を
くれてやる。
焼き尽くせ、喰らい尽くせ、全てをお前の戯れとするがいい。」
沸き起こる歓喜に炎を躍らせ、獣は咆哮を上げた。