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きおくのくさび
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とある深夜に怪談聞きながら部屋で作業中。
目線の端、壁付近に動く黒い影。
ギョッとした。
いやむしろこうか。
ギョギョ!


フィッシュクンの物まねを無関係にはさみつつ、
イラッとしたところで、驚いてそちらに目をやる。
悲鳴にもならない息を漏らし、私は凍りついた。
……巨大なゴキブリだった。



何年ぶりだろう、奴が現れたのは。
数年前に現世に現れた時、私は伝説の武器、
手製粘着ガムテ―プ棒によって打ち倒したのだ。
しかし今回は身近に太刀打ち出来そうなものが無い。
早くしなければ、早くしなければヤられる!


しかし、数秒の間、奴は恐ろしい速さで動き壁の角へ突撃。
そして次の瞬間。


飛んだ。


正しくは滑空だっただろうか、そのまま暗がりに
吸い込まれるように消えた。
体が震える、恐ろしい。
「妙だなぁ、変だなぁ、そして私わかったんですよ。」
イヤホンから聞こえる淳二の言葉が核心を突いた。




「あいつは人間じゃねぇ」




このまま見なかったことに……
いやいやいや無理だ無理。
アイツと一緒の空間で眠れるわけがない。
それに今仕留めなければ、取り返しがつかなくなる。
押しかけ女房、百人家族とか冗談じゃない。


物陰に近づくも触れない。
しかもなんかカリカリ、音がしやがります。
自己アピ―ルですかい、陽気だねぇ。




「You shall die」




熱湯だ熱湯、コマ―シャルタイムだこの野郎!
ポットのお湯を構わずぶちまけた。
ダンボ―ルに食品だとか洋服だとかあったけれど
乾けば問題ない。
そう、お前さえいなくなればな!


と、直後に黒い弾丸が飛び出してきた。
足元に。
ぎゃぁぁぁ!!


コキブリは逆さまになって高速回転でブレイクダンスを踊る。
踊るゴキブリ、踊る私。
熱湯熱湯熱湯!!!


立ち上る蒸気の中、
呆然と立ち尽くす私としんなりしたゴキブリ。
……終わった。
時計を見ると午前三時。
永遠とも思えた戦いは、わずか十分足らずの出来事であった。
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